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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1463号 判決 1980年6月25日

控訴人 中矢栄吉

右訴訟代理人弁護士 田中征史

被控訴人 佐藤文郎

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人は「一、原判決中控訴人敗訴部分を取消す。二、被控訴人は控訴人に対し、原判決添付別紙目録記載の物件を引渡せ。三、訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行宣言を求め、被控訴人は主文第一項同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の主張、証拠関係は以下のとおり訂正、附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれをここに引用する。

原判決二枚目裏九行目の「1項で述べた取引」を「1項の取引」と、同三枚目表二行目の「打ち切った。」を「解約して打ち切った」と、同四枚目表三行目の「であるから」を「であって」と訂正する。

三、控訴人は、「被控訴人の控訴人に対する本件加工賃債権残額八八万一、六五〇円は、控訴人の被控訴人に対する本件損害賠償債権をもって対当額について相殺したことにより消滅しており、これをもって本件貸金債権残額に充当ないし、相殺される余地はない。」と述べた。

理由

一、当裁判所も原判決と同様本件控訴にかかる控訴人の本件織機の引渡請求を棄却すべきものと判断する。その理由は以下のとおり訂正、附加するほか原判決理由説示(但し、原判決八枚目表三行目までに限る)のとおりであるから、これをここに引用する。

原判決七枚目裏末行の「完全に打ち切り、」を「解約して打ち切り、」と訂正する。

二、前示引用の原判決認定の各事実を考え併せると、被控訴人は昭和五一年一一月二五日控訴人から本件織物加工取引を解約された際、本件貸金債権の期限の利益を黙示に放棄して期限の利益を主張せず、控訴人の即時支払の要求を承諾したことが推認でき、他にこの認定を覆えすに足る証拠がない。

なお、期限の定めがある貸金債務の債務者(借主)は、期限の利益を放棄するにつき相手方の利益を害することはできず(民法一三六条二項)、相手方に損害の発生があればその請求に応じてこれを賠償すべきであるけれども、これとは別に借主において一方的に受働債権たる貸金債務について期限の利益を放棄して相殺をなすことができる(大判昭九・九・一五民集一三巻一八三九頁、最判昭三二・七・一九民集一一巻七号一二九七頁参照)。

三、そして、前示原判決認定の事実によると、被控訴人が右期限の利益を放棄した昭和五一年一一月二五日における元利金残額は次のとおり、金七七万〇、七〇〇円となる。

(一)昭和五一年八月二六日の元金残額七五万円(150万円-75万円=75万円)(同月25日までの利息金5万2,275円を前示元金内金75万円とともに合計80万2,275円を支払ずみ)。

(二)昭和五一年一一月二五日現在の元利金残額七七万〇、七〇〇円

75万円+75万円/100×0.03×97日=77万0.700円

四、原判決挙示の各証拠によると、控訴人が昭和五一年一一月二五日頃被控訴人との間の本件織物加工取引を解約した際、当事者双方は、被控訴人の控訴人に対する加工賃債権残額八八万一、六五〇円を控訴人の被控訴人に対する本件貸金債権残額ないし加工用原料返還不能による本件損害賠償債権の支払に充てるためこれらと相殺する旨の合意が暗黙の裡になされたことが認められるが、右二個の反対債権のうちいずれを受働債権と指定して相殺がなされたかについては、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

このように、相殺において受働債権の指定が認められない場合には、法定弁済充当に関する民法四八九条を類推適用すべきところ、被控訴人が前認定のとおり本件貸金債務の期限の利益を喪失した以上、右貸金債務と本件損害賠償債務は右相殺の合意の時点で共に弁済期にあることになるので、同条二号に従い債務者のために「弁済ノ利益多キモノ」に充当して相殺すべきものである。

そして、物的担保のある本件貸金債務がこれのない損害賠償債務よりも債務者である被控訴人のために弁済利益が多いものというべきであるから前示本件貸金債務七七万〇、七〇〇円全額は、前示未払加工賃債務と対当額において相殺されたことにより消滅したものといわねばならない。

五、してみると、被担保債権たる本件貸金債権が消滅し、控訴人に本件織機の譲渡担保に基づく所有権が認められないから、その所有権に基づき本件織機の引渡を求める控訴人の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は結局相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 村上博巳 吉川義春)

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